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マイナンバーカードの仕組みIC チップの中身と 4 つの暗証番号、落としても悪用されにくい理由

マイナンバーカードには、券面に印刷された情報、裏面の 12 桁のマイナンバー(個人番号)、そして IC チップの 3 つが載っています。このうち、オンラインで「本人であること」を証明しているのは IC チップの中の鍵だけです。番号は名札にすぎず、知られても本人にはなりすませません。この講座では、チップに何が入っていて、どの場面で何が使われるかを順に見たうえで、落としたカードを拾った人に何ができるかを、拾った人の立場で確かめていきます。

my number card / ic chip
IC チップ ├─ JPKI-AP 公的個人認証 │ ├─ 署名用電子証明書 + 秘密鍵 英数字 6-16 桁 / 5 回でロック │ └─ 利用者証明用電子証明書 + 秘密鍵 数字 4 桁 / 3 回でロック ├─ 券面AP 券面の画像(顔写真・番号) 照合番号 ├─ 券面事項入力補助AP 番号と 4 情報の文字 数字 4 桁 / 3 回 ├─ 住基AP 住民票コード 数字 4 桁 / 3 回 └─ 空き領域 自治体・民間のサービス用 -- 記録されていないもの 税・所得・年金・病歴・預金口座

秘密鍵はチップの外へ一度も出ず、使うたびに暗証番号が要ります。税や病歴は、行政機関のシステムがそれぞれ別に持っています。

01 / Start here

番号は鍵ではない

マイナンバーカードを理解する軸は 1 つです。マイナンバーは「誰か」を指す名札で、合言葉ではない。本人であることを証明するのは、IC チップの中にある秘密鍵である。番号を知られたときと、カードを落としたときの危険の大きさは、すべてこの 1 点から決まります。

番号は
名札鍵はチップの中

番号・券面・チップが、それぞれ何を担っているか。

役割 知られる・見られると マイナンバー 誰の記録かを指す 番号だけでは本人になれない 券面 対面で見て確かめる 顔の似た人や偽造カードに欺かれうる IC チップ オンラインで本人を証明する 鍵は外に出ず、暗証番号で守られる

マイナンバーは、税・社会保障・災害対策の手続きで、行政機関が「この人の記録」を間違えずに探すための番号です。会社や銀行にも提出するので、多くの人の目に触れる前提で作られています。番号を使う手続きでは、番号が本人のものかの確認(番号確認)と、来た人が本人かの確認(身元確認)を必ず別に行います。番号だけでは、身元確認を通れません。

オンラインで本人を確かめるのは、IC チップに入っている秘密鍵 (private key) です。チップは鍵を使って電子署名を作り、受け取った側はそれが本物かを確かめます。鍵はチップの外に一度も出ず、使うたびに暗証番号が要ります。そのため、カードを拾った人も、暗証番号が分からなければ鍵を使えません。危険が残るのは、暗証番号を推測できる形にしたときと、券面を目で見るだけの対面の場面です。

02 / Inside the chip

IC チップに入っているもの

IC チップの中は、用途ごとのアプリケーション(AP)と呼ばれる領域に分かれています。国が使う領域は 4 つで、それぞれ別の暗証番号か照合番号で守られています。カードを機械にかざすたびに、機械はこのどれかを開いています。まず、読者が経験する場面から、どの領域が開かれているかを見ていきましょう。

場面ごとに開く領域

場面開く領域入れるもの取り出すもの
e-Tax で申告を送る、電子契約に署名する公的個人認証(署名用)英数字 6-16 桁本人の名前の電子署名と、4 情報入りの証明書
マイナポータルにログインする公的個人認証(利用者証明用)数字 4 桁本人であることだけを示す電子署名
コンビニで住民票の写しを取る公的個人認証(利用者証明用)数字 4 桁同上
病院の受付で顔認証をする券面AP、公的個人認証(利用者証明用)照合番号(リーダーが券面から作る)顔写真と、利用者証明用の証明書
証券会社や生命保険会社のアプリで口座を開く公的個人認証(署名用)と券面事項入力補助英数字 6-16 桁と数字 4 桁本人確認の電子署名と、マイナンバー
引っ越し先の市区町村の窓口で転入届を出す住民基本台帳数字 4 桁住民票コード
携帯電話の契約や中古品の買取で、店員がカードを確かめる券面AP照合番号(店のアプリが券面から作る)券面の画像と顔写真

口座開設と対面での確認の流れは、デジタル庁の資料「マイナンバーカードの「安全・便利なオンライン取引」構想を進めるために」に載っている事例に沿っています。

4 つの領域の役割

  1. JPKI-AP公的個人認証

    署名用電子証明書と利用者証明用電子証明書、それぞれの秘密鍵が入っています。本人であることをオンラインで証明する、カードの中心となる領域です。e-Tax や電子契約では署名用が、マイナポータルやコンビニ、マイナ保険証では利用者証明用が使われます。2 つの違いは 03 2 つの電子証明書で扱います。

    暗証番号 2 種類署名用は英数字 6-16 桁、利用者証明用は数字 4 桁
  2. 券面AP券面事項確認

    券面の画像が入っています。表面は氏名・住所・生年月日・性別の 4 情報と顔写真、裏面はマイナンバーです。チップの画像は書き換えられないので、券面と見比べれば、写真の貼り替えや文字の書き換えが分かります。病院の顔認証付きカードリーダーや、携帯電話会社・金融機関・中古品の買取店・自治体の窓口が使うデジタル庁のマイナンバーカード対面確認アプリが、この領域を読んでいます。

    照合番号表面だけなら生年月日・有効期限の西暦・セキュリティコードの 14 桁、裏面も見るならマイナンバー 12 桁
  3. 券面事項入力補助AP券面事項入力補助

    マイナンバーと 4 情報が、文字のデータとして入っています。名前のとおり、券面を見て手で打ち込む代わりに、読み取って入力するための領域です。証券会社や生命保険会社のアプリでマイナンバーを提出するとき、カードをかざして 4 桁の暗証番号を入れると、ここから番号が読み取られて送られます。番号を書いた書類や、カードの写しを郵送する代わりです。マイナンバーを文字のまま取り出せるのはこの領域だけなので、暗証番号で守られています。

    暗証番号 数字 4 桁マイナンバーと 4 情報を読むとき。4 情報だけなら照合番号でも読める
  4. 住基AP住民基本台帳

    住民票コードが入っています。住民票コードは、全国の市区町村をつなぐ住民基本台帳ネットワーク(住基ネット)で本人の記録を探すための 11 桁の番号で、マイナンバーより前からあります。引っ越し先の窓口で、マイナンバーカードを使って転入届を出すとき(転入届の特例)に、職員の端末にカードを置いて 4 桁の暗証番号を入れます。同じ窓口で、カードを新しい住所で使い続ける手続き(継続利用)もします。家族が代わりに手続きするときも、本人のこの暗証番号が要ります。

    暗証番号 数字 4 桁窓口での転入・継続利用のとき
  5. 空き領域独自のサービス用

    条例で定めた自治体の図書館カードや印鑑登録証、総務大臣の認定を受けた民間の社員証などが使う領域です。

    サービスごとに設定

各領域の名前と守り方は、デジタル庁の資料「マイナンバーカードのアプリの概要」に沿っています。

証券口座の開設で暗証番号を 2 つ聞かれるのは、電子証明書にマイナンバーが入っていないからです。証券会社は、口座を開く人の本人確認(犯罪収益移転防止法)と、マイナンバーの取得(税の法律)の 2 つを求められています。本人確認は署名用電子証明書の電子署名で行い、証明書に入っている氏名・住所・生年月日・性別もそこから受け取ります。ところが証明書には番号が入っていないので、番号だけは券面事項入力補助の領域から、4 桁の暗証番号で読み取ります。2 つの暗証番号は、2 つの別の領域を開けるための鍵です。

電子証明書に番号が入っていないのは、証明書が番号を使わない民間の手続きにも広く使われるからです。ログインや契約のたびに番号が相手に渡ることはなく、番号が必要な手続きでだけ、本人が 4 桁を入れて渡します。

チップに記録されていないものも、仕組みを理解するうえで大切です。税・所得・年金・病歴・預金口座の情報は、チップには入っていません。これらは、税務署、年金機構、健康保険の保険者、銀行などが、それぞれ自分のシステムで別々に持っています。行政機関どうしが情報をやりとりするときも、マイナンバーそのものではなく、機関ごとに変えた別の符号を使います。カードを読み取っても、カードに書かれていない情報は出てきません。

IC カード (smart card) のチップは、耐タンパー性 (tamper resistance) と呼ばれる性質を持つように作られています。外から電気信号を流したり、削って中を調べたりして秘密鍵を読み出そうとすると、チップ自体が壊れるか、情報が消えるようになっています。チップの外から鍵を取り出す正規の命令も用意されていません。

照合番号は暗証番号と違う

券面APを開く 14 桁の照合番号は、券面に印字された生年月日・有効期限・セキュリティコードからできています。券面を見れば誰でも作れる番号で、本人だけが知っている秘密ではありません。

これは設計どおりです。券面APの役割は、目の前のカードが改ざんされていないかを、カードを手にした人が確かめることだからです。店員が対面確認アプリでカードを読むとき、本人は暗証番号を入れません。アプリが券面をカメラで読んで照合番号を作り、チップの画像と券面を並べて見せます。病院の顔認証付きカードリーダーも、同じ方法で顔写真を取り出しています(06 マイナ保険証の受付で起きていること)。

偽造カードは目視では見破れない

2024 年 4 月から 5 月にかけて、東京都議会議員と大阪府八尾市議会議員が、相次いで携帯電話の番号を乗っ取られました。犯人は議員の公開情報をもとに偽造したマイナンバーカードを携帯電話会社の店頭に持ち込み、機種変更の手続きで電話番号を自分の端末に移しました。SIM スワップ (SIM swap) と呼ばれる手口で、乗っ取られた番号は高額な腕時計の購入や電子マネーの決済に使われました。議員はカードを落としていません。

国は券面について、レーザーでの文字の彫り込みや彩紋で「偽造は困難」と説明してきました。しかし、店員が券面を目で見るだけの確認は、この事件で偽造カードに破られています。偽造防止の加工は、確かめる人がその加工を知っていて、手に取って見比べたときにしか働きません。偽造カードを見破れるのは、IC チップの読み取りです。対面確認アプリでチップを読めば、偽造カードは読み取りに失敗するか、チップの画像と券面が合わずに見破れます。

この事件を受けて、本人確認の決まりが変わります。銀行の口座開設などに適用される犯罪収益移転防止法の施行規則は、2027 年 4 月 1 日から、対面でも IC チップを読み取る確認を原則にします。携帯電話の契約についても、総務省が同じ方向で規則の改正を進めています。店頭でカードをかざすよう求められるのは、券面の目視では偽造を止められないからです。

確かめ方

カードを使った場面で入れた番号を思い出すと、どの領域が開かれたかが分かります。数字 4 桁を入れたなら、利用者証明用・券面事項入力補助・住民基本台帳のどれかで、上の表の場面から決まります。英数字なら署名用です。何も入れなかったなら、券面の情報から作った照合番号で券面APが開かれています。

03 / Two certificates

2 つの電子証明書

公的個人認証サービス (JPKI) は、地方公共団体情報システム機構(J-LIS)が電子証明書を発行し、本物かどうかを確かめられるようにしている国の仕組みです。カードには、用途の違う 2 つの電子証明書 (digital certificate) が入っています。

署名用電子証明書利用者証明用電子証明書
証明することこの文書を、本人が作って送った今ログインしているのは、本人である
含まれる情報氏名・住所・生年月日・性別含まない(証明書を見分ける番号だけ)
使う場面e-Tax での申告の送信、電子契約、各種の電子申請マイナポータルへのログイン、コンビニでの住民票の取得、マイナ保険証
暗証番号英数字 6-16 桁数字 4 桁
失効するとき住所・氏名などが変わったとき住所が変わっても続く
有効期限発行日から 5 回目の誕生日まで。カード本体は 10 回目の誕生日まで(18 歳未満は 5 回目)

電子署名の流れ

  1. 本人が暗証番号を入れる

    カードの中の秘密鍵が使えるようになります。

  2. チップが署名を作る

    送る文書から計算した値に、秘密鍵で電子署名 (digital signature) を付けます。計算はチップの中で行われ、鍵は外に出ません。

  3. 文書・署名・証明書を送る

    証明書には、ペアになる公開鍵 (public key) と本人の情報が入っていて、J-LIS の署名が付いています。

  4. 受け取った側が確かめる

    証明書の公開鍵で署名を検証し、J-LIS に証明書が失効していないかを問い合わせます。

電子証明書は、「この公開鍵は、この人のものである」という J-LIS の保証書です。公開鍵は、ペアの秘密鍵で作った署名が本物かを確かめることだけができ、署名を作ることはできません。受け取った側は、証明書と公開鍵を持っていても、本人の代わりに署名することはできません。

署名用電子証明書には氏名と住所が入っているため、住所が変わると中身が事実と合わなくなります。そこで、引っ越しや結婚で住民票の記載が変わると、署名用だけが失効 (revocation) します。新しい住所の署名用電子証明書は、市区町村の窓口で発行し直します。

利用者証明用電子証明書は、本人の情報を含まず、「この証明書の持ち主がログインした」ことだけを示します。サービス側は誰が来たかを知るために、事前に証明書と利用者を結びつけておきます。マイナ保険証の利用登録は、この結びつけの手続きです。

情報処理技術者試験との対比

試験では、デジタル署名を「送信者の秘密鍵でハッシュ値を暗号化したもの」と説明する問いがよく出ます。この説明は、現行カードが使う RSA 方式にだけ当てはまります。次期カードで採る予定の楕円曲線暗号 (ECDSA) の署名は、ハッシュ値を暗号化する計算ではありません。実務では「秘密鍵で署名を作り、公開鍵で検証する」と覚えておけば、方式が変わってもそのまま通用します。

次期カードで変わること

現行カードの電子証明書は、RSA 2048 ビットの鍵を使っています。国の暗号の基準(CRYPTREC)は、この方式を 2031 年以降は使わないものとしています。そこで国は次期カードで、楕円曲線暗号 ECDSA の 384 ビットに切り替える方針を決めました。より強い方式にすることで、電子証明書の有効期限を 5 年から、カード本体と同じ 10 年に延ばします(18 歳未満は 5 年のまま)。

暗証番号は、4 つの領域を 2 つにまとめることで、署名用のパスワードと 4 桁の暗証番号の 2 つに減ります。券面からは性別の記載がなくなり、チップにだけ記録されます。導入は、2026 年 7 月の閣議決定で 2029 年度中を目指すとされています。今のカードは、有効期限まで使えます。

04 / PINs

4 つの暗証番号

多くの人が覚えている暗証番号は、数字 4 桁と英数字 6-16 桁の 2 つです。ただしチップの中では、4 桁の暗証番号が用途ごとに 3 つ別々にあり、受け取るときに同じ番号にそろえているため 1 つに見えています。

暗証番号桁数ロックまで使う場面
署名用電子証明書英数字 6-16 桁
英大文字と数字をそれぞれ 1 文字以上
5 回e-Tax での申告の送信、電子契約、証券口座の開設での本人確認
利用者証明用電子証明書数字 4 桁3 回マイナポータル、コンビニでの住民票の取得、マイナ保険証
住民基本台帳数字 4 桁3 回引っ越し先の窓口での転入届と、カードの継続利用
券面事項入力補助数字 4 桁3 回証券会社や生命保険会社のアプリでのマイナンバーの提出

数字 4 桁の 3 つは、交付のときに別々の番号にすることもできます。署名用は、ほかと別に設定します。

4 桁の数字は 1 万通りしかありません。それでも推測で当てられないのは、3 回間違えるとチップがロックされ、それ以上試せなくなるからです。拾った人が当てずっぽうで入れて当たる確率は、1 万分の 3、つまり 0.03% です。回数の制限はチップ自身が数えているので、パソコンにつないで高速に試すような攻撃もできません。正しい番号を入れると、間違えた回数は 0 に戻ります。

署名用は、文書に本人の名前で署名できる強い権限なので、桁を長くし、英字と数字を混ぜる決まりになっています。そのかわり、5 回まで試せます。

この守りが働くのは、暗証番号が推測できないときだけです。カードの表面には生年月日が印刷されています。暗証番号を誕生日の月日や生まれ年にしていると、拾った人は 1 回目で当てられます。デジタル庁も、4 桁の暗証番号を生年月日やセキュリティコードと同じにすることは適切でないとしています。電話番号の下 4 桁も、同じ財布に名刺や診察券が入っていれば分かってしまいます。

ロックがかかったとき

署名用と利用者証明用のどちらか一方がロックされても、もう一方の暗証番号が分かっていれば、スマートフォンのアプリとコンビニのキオスク端末を使って初期化し、再設定できます。両方が分からないときや、住民基本台帳・券面事項入力補助の暗証番号は、市区町村の窓口で再設定します。窓口ではカードと本人確認が要ります。

確かめ方

自分の暗証番号が、券面・財布の中身・よく知られた自分の情報から作れないかを確かめましょう。作れるなら変更しましょう。今の暗証番号が分かっていれば変更でき、方法は J-LIS の公的個人認証サービス ポータルサイトで案内されています。

暗証番号のメモは、カードと別の場所に置きます。カードのケースや財布に暗証番号のメモが入っていると、落としたときに 3 回・5 回の制限が意味をなさなくなります。

05 / Simulator

落としたカードのシミュレーター

駅でマイナンバーカードを落としました。あなたはそれを拾った人の立場で、手元にあるものを使って 7 つの場面を試します。 拾った人が持っているものと、カードの持ち主が選んでいた暗証番号を切り替えて、どの場面が通るかを確かめてみましょう。

-通る場面
-当たりうる・相手しだい
-通らない場面
場面使うもの結果

拾った人が持っているもの

持ち主の暗証番号の選び方

持ち主の対応

当たる確率は、数字 4 桁が 3 回、署名用が 5 回でロックされることから計算しています。顔認証で他人を誤って通す確率は、国がカードリーダーに求める性能の目安(1 万回に 1 回)です。

動かすと見えること

カード 1 枚だけでは、電子証明書を使う場面はどれも通りません。4 桁は 3 回、署名用は 5 回でロックされ、病院の顔認証は本人の顔でなければ通りません。

4 桁の暗証番号を誕生日か生まれ年にしていると、カード 1 枚でマイナポータル・コンビニ・病院の暗証番号の 3 つが開きます。券面に生年月日が印刷されているからです。署名用を氏名と生年月日の組み合わせにしていると、e-Tax での申告の送信まで当たりうる場面に変わります。

一時利用停止をすると、電子証明書を使う場面はすべて止まります。それでも、対面で券面を見せる場面だけは止まりません。券面の見た目は停止しても変わらないからです。この場面は、遺失届を出しても、カードを廃止しても閉じません。店員の目視でも、IC チップの読み取りでも、カードが廃止されたかどうかは分からないからです。残る守りは、確認する人がチップの顔写真と目の前の人を見比べることだけです(08 落としたとき・番号を知られたときにすること)。

06 / At the clinic

マイナ保険証の受付で起きていること

病院や薬局の受付でカードを置く機械は、顔認証付きカードリーダーです。カードを置いてから資格が確かめられるまでに、何がどこへ送られているかを順に見ていきましょう。

受付の流れ

  1. カードを置く

    カードは受付の人に渡さず、置いたままにします。

  2. 券面から照合番号を読み、顔写真を取り出す

    リーダーが券面を撮影して文字を読み取り、生年月日・有効期限・セキュリティコードから照合番号を作ります。その番号で券面APを開き、チップの顔写真を取り出します。

  3. 顔か暗証番号で本人を確かめる

    カメラで撮った顔とチップの顔写真を、1 対 1 で照合します。顔認証を選ばない人や、うまく通らない人は 4 桁の暗証番号を入れます。

  4. 利用者証明用電子証明書で照会する

    本人と確かめられたら、利用者証明用電子証明書を使って、オンライン資格確認等システムに資格を問い合わせます。

  5. 資格が画面に返る

    システムは証明書から本人を特定し、今加入している健康保険の資格を返します。同意すれば、過去の薬や健診の情報も医師に見せられます。

この流れの中で、医療機関はマイナンバー(12 桁)を一度も扱いません。資格の照会に使うのは、利用者証明用電子証明書です。オンライン資格確認等システムの側では、事前の利用登録で、証明書と加入者の記録が結びつけられています。

顔認証で使う顔写真は、券面ではなくチップの中の画像です。チップの画像は書き換えられないので、券面に別人の写真を貼っても、照合では本人の写真と比べられて通りません。チップの顔写真は白黒で、撮影時の明るさや髪型、眼鏡によっては通りにくくなります。国は新しいカードリーダーの要件として、他人を誤って通す確率を 1 万回に 1 回にしたときに、本人を誤って弾く確率を 0.3% 以下にする性能を求めています。

健康保険の側で加入者とマイナンバーを結びつける作業は、保険者(健康保険組合や市区町村)が行います。2023 年に相次いだ別人の情報が表示される誤りは、この登録で別人のマイナンバーを入力したことで起きました。カードやチップの仕組みの不具合ではなく、事前に結びつけるデータの誤りです。

顔認証が何度も通らないと、照合番号がロックされ、画面に「照合番号がロックされています」と出ることがあります。このときは、その場では暗証番号か受付の人の目視で受け付けてもらい、後日、市区町村の窓口でロックを解除します。

07 / On smartphones

スマホに載せたマイナンバーカード

Android は 2023 年 5 月から、iPhone は 2025 年 6 月から、マイナンバーカードの電子証明書の機能をスマートフォンに載せられるようになりました。スマホ用電子証明書と呼ばれます。

スマートフォンに載せるといっても、カードの秘密鍵をコピーしているわけではありません。カードの鍵はチップの外に出ないので、コピーはそもそもできません。スマートフォンの中のセキュアエレメント (Secure Element) と呼ばれる専用のチップで、新しい鍵ペアを作ります。そのうえで、カードの電子証明書で本人であることを確かめてから、J-LIS がスマートフォンの公開鍵に対して新しい電子証明書を発行します。

カードとスマートフォンは、同じ人の、別々の鍵と証明書を持つことになります。そのため、スマートフォンを失くしたときは、スマホ用電子証明書だけを止められます。カードはそのまま使えます。逆に、機種変更では、新しい端末で発行し直し、古い端末の証明書は失効させます。

スマホ用電子証明書を使うときは、スマートフォンに設定した暗証番号か、iPhone では Face ID や Touch ID で本人を確かめます。iPhone のウォレットに載せたカードには券面の情報も入り、対面での本人確認にも使えます。

確かめ方

スマホ用電子証明書を載せているかは、マイナポータルアプリで確かめられます。端末を下取りに出す・手放す前に、マイナポータルアプリで電子証明書を削除します。

スマートフォンを失くしたときは、カードを落としたときと同じフリーダイヤルで、スマホ用電子証明書の一時利用停止を申し出ます(08 落としたとき・番号を知られたときにすること)。

スマートフォンの画面ロックは、電子証明書を守る最初の壁です。画面ロックのパスコードを誕生日にしていると、端末を拾った人に最初の壁を越えられます。カードの暗証番号と同じく、推測できない番号にしておきます。

08 / What to do

落としたとき・番号を知られたときにすること

ここまでの仕組みを、実際に起きたときの手順にまとめます。前半はカードを落としたとき、後半はマイナンバーを知られたときです。

カードを落としたとき

  1. 一時利用停止を申し出る

    マイナンバー総合フリーダイヤル 0120-95-0178 に電話します。カードの紛失・盗難による一時利用停止は、24 時間 365 日受け付けています。停止すると、カードの電子証明書が使えなくなります。

  2. 警察に遺失届を出す

    近くの交番か警察署に届け、受理番号と警察署の連絡先を控えます。盗まれたときは盗難届です。カードが届けられれば警察から連絡が来ます。受理番号は再交付の申請で紛失を示すのに使い、拾った人に悪用されたときには、自分が手続きしていないことを示す記録になります。

  3. 見つかったら解除、見つからなければ廃止

    見つかったら、市区町村の窓口で停止を解除すれば同じカードが使えます。見つからなければ、窓口で廃止して再交付を申請します。紛失から 30 日以内に申請すれば特急発行を使え、原則 1 週間で住民登録の住所に簡易書留で届きます。手数料は 2,000 円(電子証明書が要らなければ 1,800 円)です。廃止したカードは、後で見つかっても使えません。

05 落としたカードのシミュレーターのとおり、一時利用停止は電子証明書を止めるだけで、券面の見た目は変わりません。対面で身分証として使われる余地は、遺失届でもカードの廃止でも閉じません。対面確認アプリはチップの中身が本物かを確かめるもので、インターネットにつながらない場所でも使えます。カードが廃止されたかどうかはチップに書かれていないので、アプリで読んでも分かりません。廃止で止まるのは、一時利用停止と同じく電子証明書を使う場面で、違いは停止が永久になり、見つかったカードも使えなくなることです。

マイナンバーを知られただけなら、基本的には何もしなくて大丈夫です。01 番号は鍵ではないのとおり、番号を使う手続きでは必ず身元確認が別に行われ、番号だけでは本人になりすませません。番号の変更は、番号が漏れて不正に使われるおそれがあると認められる場合に限って、市区町村が新しい番号を指定します。変更すると、勤務先や金融機関に届けた番号もすべて届け直しになります。

マイナンバーの提出を求められる正当な場面は、法律で決まっています。勤務先(給与の源泉徴収、社会保険)、証券会社や銀行(口座の開設、配当や利子の支払い)、保険会社(保険金の支払い)、市区町村や税務署などです。どの場面でも、暗証番号を聞かれることはありません。

電話・メール・SMS で「マイナンバーカードの手続きが必要です」と言って暗証番号やカードの写真を求めるのは、詐欺の典型的な手口です。役所や銀行を名乗っていても答えず、自分で調べた公式の窓口に問い合わせ直します。カードと暗証番号をそろえて他人に渡すことは、鍵と合鍵の番号を一緒に渡すことと同じです。家族であっても同じです。

09 / Read the symptom

よくある相談 3 例

家族や同僚から持ち込まれる相談です。いずれも理解のための架空の状況です。何が起きていて、何をすべきかを考えてみましょう。

10 / Myth vs. reality

よくある勘違い

どれももっともらしく、仕組みに詳しそうな人ほど口にしがちな話です。

MISCONCEPTION 01

「IC チップに、税や病歴の情報が入っている」

チップに入っているのは、券面の情報と電子証明書、住民票コードだけです。税・年金・病歴・口座は、行政機関や保険者がそれぞれのシステムで別々に持っていて、カードを読み取っても出てきません。マイナ保険証で薬の情報が見られるのも、チップからではなく、本人の同意のもとでシステムに問い合わせているからです。02 IC チップに入っているもので、領域ごとの中身を確かめられます。

MISCONCEPTION 02

「暗証番号が 4 桁なのは短すぎて危ない」

3 回でロックされるので、当てずっぽうで当たる確率は 0.03% です。回数はチップ自身が数えていて、高速に試すこともできません。危ないのは桁の短さではなく、誕生日や生まれ年のように券面や手元の情報から推測できる番号を選ぶことです。05 落としたカードのシミュレーターで、選び方を変えると結果が大きく変わる様子を確かめられます。

MISCONCEPTION 03

「一時利用停止をすれば、拾った人はもう何もできない」

一時利用停止で止まるのは、電子証明書を使うオンラインの場面です。券面の見た目は変わらないので、対面で身分証として見せる場面は止まりません。顔立ちの近い人が持てば、確認する人の注意しだいで通る余地が残ります。この余地は、遺失届を出しても、カードを廃止しても閉じません。対面の確認では、カードが廃止されたかどうかを確かめられないからです。なお対面の場面は、カードを落としていなくても偽造カードで狙われます。これを見破るのは IC チップの読み取りです(02 の「偽造カードは目視では見破れない」)。08 落としたとき・番号を知られたときにすることの 3 つの手順を、最後までたどりましょう。

11 / Knowledge check

理解度チェック

答えを当てるだけでなく、なぜそう判断できるのかを説明できれば合格です。

YOUR PROGRESS 01 / 09

選択肢を1つ選んでください。

Take it home

番号は名札、鍵はチップの中

番号は名札知られても本人にはなれない
鍵はチップの中秘密鍵は外に出ない
暗証番号で守る推測できない番号を選ぶ
落としたら止めるフリーダイヤルで一時利用停止
届けて作り直す遺失届と、見つからなければ再交付

マイナンバーは、行政機関が記録を探すための名札で、知られても本人にはなりすませません。オンラインで本人を証明するのは IC チップの中の秘密鍵で、鍵はチップの外に出ず、使うたびに暗証番号が要ります。4 桁の暗証番号は 3 回、署名用は 5 回でロックされるので、推測できない番号を選んでいれば、カードを拾った人にもほとんど何もできません。

守りの弱点は、暗証番号を券面や手元の情報から作ったときと、券面を目で見るだけの対面の場面です。暗証番号を見直し、落としたらすぐに一時利用停止をすれば、電子証明書を使う場面はすべて閉じられます。対面の場面だけは、持ち主の手続きでは閉じられず、確認する人がチップの顔写真と本人を見比べることに守りを預けることになります。対面の場面は偽造カードでも狙われ、それを見破れるのは券面の目視ではなく IC チップの読み取りです。手順は 08 落としたとき・番号を知られたときにすることにまとめています。

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